帰りの電車は混み合っていた
つり革に掴まり窓に映る自分を見る
疲れた顔がそこにあった
楽しかったはずなのに彼が現れてから胸が苦しくてそこから逃げ出したくなった

抱かれた肩に感じた彼の手のひらの暖かさは、ただの体温というだけで
そこに気持ちは無かったように思う

たった一度一緒に飲んで楽しく話をして終わった
それだけのこと
そう思えなくてどうするの
今まで何人ものタレントと仕事上の付き合いをしてきたはずでしょう

一度飲んだくらいで何だっていうの

そう自分に言い聞かせる
次に仕事で会うときには
以前と同じ気持ちになっていよう
何も求めず何も思わず以前と同じように……


その日から気持ちを抑えて仕事をしていた
タレントをインタビューした内容を文字にし、下刷りのチェックをする
それを繰り返し毎日が過ぎる

一人の部屋に帰り一人の時間を過ごす
今日は明日の為にあり
明日は明後日の為にある

自分の時間を自分の事だけに使う
明日の自分が幸せでいられるように
幸せだと感じられるように

彼の事を考えないようにして顔を思い出さないようにした
うっかり見てしまわないように
テレビをつける時も気をつけて過ごした

それでもあの日のタクシーでの囁き声を思い出しては顔が熱くなった
夢で私を見つめる彼に会ってしまうこともあった
苦しくなる前に考えないようにする癖も付いていた

有給休暇を消化するというのも仕事の一つだと言われているから
休みを集めて連休にし気楽な一人旅でもして来ようかしら

短い間でも東京から離れる事が出来たら良いかもしれない
そんな事を考えて、どこにするか調べ始めた

旅行を来月と決めてスケジュールを調整し5連休にした

一番最後に行ったのは沖縄の離島のK島だった
海の上のコテージに連泊し
何もしない日を過ごすのも良い
そこでぼんやりしたり本を読んで過ごしたかった

すぐにネットで航空機とホテルの予約をした

I島までは直行便がある
K島に行くにはその島から船に乗る

天候如何で行き着けないこともあるのだが
その時はその時考えよう
とにかく東京から離れようと思った




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