榎本さんから聞くコンサートの話は楽しい
ずっと立ったままで飛び跳ねていても
全く疲れないらしい

ペンライトが綺麗だったとか
彼はファンサを100人以上にやってくれるとか
何度聞いても楽しそうに話してくれる

私が持っていないアルバムをダビングしてくれたり
彼のソロ曲だけを集めたCDを作ってくれた

iPadでネットを楽しむことができるし
メールも電話もできる

楽しみはたくさんあるが
一番の希望は普通の生活に戻れることだった
家から学校や仕事に行くという普通の生活

たぶんもう退院はできないだろう

ここは終末医療の病院だから

父が私の好きな海の近くに立つこの病院を探してくれた


歩くことはできるけれど
すぐに疲れてしまうから
部屋から出る時は車椅子に乗る　
後ろを押してもらい散歩する

部屋からは遠くの海と空しか見えないけれど
中庭に出ると海がもっと広く見えた

小さな港から漁船が海へ出る様子や
釣り人も見えた
堤防に干してある網を踏まないように歩く子供
釣竿を持った父親と一緒に釣りを楽しむのだろう

晴れの日
細かな波が太陽に照らされて何万何十万の輝きが揺らめく

曇りの日
白く見える海
だけど水平線を見ると空の色の方が白い

日が落ちてくると海の色に黒が混じる
昼間の海とは違って
怖さも感じる濃い青になっていく


こうやって海を眺めて過ごすのが好き
写真を撮ってiPadのアルバムに保存している
でもこの景色は
中庭に行かないと見ることはできなかった

体調の良い日
雨でない日
少し元気な時の楽しみだった

ベッドに横になったまま窓の外を写す
手を伸ばしてできるだけ大きく撮れるようにする

空と海が撮れる
四角い窓枠も一緒だったけれど

でもこれが現実だからこれで良い

彼の番組へのメールには
必ず空と海の写真を一緒に送っていた
中庭から撮った海や
ベッドから手を伸ばして撮る写真だ

件名はいつも「四角い空」
空と海の色を書いたり
彼の出ているバラエティーや歌番組の感想を送っていた

今まで2回
彼がメールを読んでくれた

頑張って　応援してるよと言ってくれたのが嬉しかった

自分にできることを精いっぱいやろうと思っている
今のところ食べることくらいしかないんだけど