「智…本当にありがとう
あの人を励ませたと思うわ
嘘でもまた会いましょうなんて言ってくれて
私も嬉しかったわ」
「 嘘じゃないよ
今までの事もあるだろうけど
男として魅力のある人だよね
きっとずっと自信のある生き方をしてきたんだと思うのに
病気に負けそうで励ましたくなってるんだ」
「そうなの
そうよね
これから先どうなるかわからない手術に向かうんですものね
ありがとう
そんな風に考えてくれて」
「 うん」
「俺は杏子の為になるならなんでもできるよ」
「 ありがとう
嬉しいわ」
杏子の安心した顔を見て
今日一緒に行って本当に当に良かったと思った
杏子は、キッチンに立ち
酒のつまみになるものを作ってくれている
これからもその優しい笑顔をずっと見ていられそうな気がして
安心感と嬉しい気持ちでいっぱいになった
料理する杏子を見ていたくてカウンターから離れなかった
「座ってて」
「杏子を見ていたいんだ」
「そう?」
「うん…俺のために料理してくれてるのがこんなに嬉しいなんて思わなかった」
「うん」
「俺…ほんとに杏子が好きだ」
「そうやって言葉にしてくれるのって嬉しいわ」
「なんたって俺…マジだから」
「ふふふ」
包丁とまな板を洗って片付けると出来上がった料理を俺に渡した
「うまそう」
俺はその皿を両手で持ちリビングのテーブルに運んだ
部屋にはごま油のよい香りが満ちている
お腹が空いたと知らせるかのように鳴った
榎本さんの手術の日が過ぎた
どうだったのか訪ねる訳にはいかなかった
きっとうまくいって
いつか一緒に食事をする事が出来るだろう
そう思いながら過ごしていた
2週間たって榎本さんの奥さんから杏子に手紙が届いた
開封する前に俺にメールして来たからマンションに行った
「驚いたわ
私に手紙なんて…」
「そうだよね なんて書いてあるんだろう
まさかね…」
「うん…怖くて開けられなかったの」
「そうだよね…どれ?」
俺が先に目を通した
「あ~良かった
手術は成功したんだって
退院もできるらしいよ
ほら…読んでごらんよ」
「うん……
良かったわ
もしものことを考えていたから安心したわ」
「良かったよね
俺…約束したからまた一緒に飯食わなくちゃ」
「そうね
本当に良かった」
いつかまた会えたら
杏子の若い頃の話を聞きたいなと思い
なんだか嬉しくなった
「智…ありがとう
あなたを好きになって良かった
私…本当に幸せなの」
「うん…俺も杏子を好きになって良かったよ」
ソファーに並んで座っていた杏子を抱き寄せて頭を撫でると
潤んだ目で俺を見つめた
終わり