「また、前みたいになれるかな？
俺…もっと、ちゃんとした男になるよ」

「そう？」

「うん…さちの嫌がることは、しない」

「それは、どんなことを思って言ってるの？」

「いろいろ…まあほとんど女関係だな」

「うん…
でも私も変な事で焼きもち妬くのは、やめるわね」

「誤解されるようなことは、しないし
さちを大事にしたい」

「ありがとう…嬉しいわ
智さん…変わったわ
素敵なのは変わらないけど…
なんか…
優しくなったし
私をまっすぐ見てくれる気がする」

「うん
そうなのかな
大事なものが何かわかったんだ
俺に、本気で向き合ってくれたから
さちは、笑ったり泣いたり怒ったりしてたんだよな
さちの他には、誰もいないんだ
そういう事はっきり言ってくれる人って」

「そうなの」

「うん…なかなかね
さちの事、大事にしたいよ
本気だから」

「わかったわ
私だって同じ
智さんの事をずっと忘れられなかった
どうして別れちゃったのか何度も後悔してた
私を好きだって言ってくれた言葉を信じられなくなっちゃって…
でもあの時は、そう思ったから…」

「うん
俺の態度が悪かったんだよね」

「ふふ
もう良いのよ」

「そう？許してくれるんだ？」

「ええ」

「良かった
さちを大事にしたいよ
今度こそ…」

「うん」

智さんの優しい顔が
もっと優しくなって私を見つめる
彼の瞳に私が映っている

「私が映ってる」

「俺が映ってる」

彼は、もう一度ゆっくりキスをして
私を胸に抱いてくれた

幸せな気持ちが湧いてくる
また戻れた
彼の胸に戻って来られた
目を閉じていると
頭を撫でてくれていた彼が言った

「髪の毛…また伸ばしてね」

「ふふふ…がんばる」

彼の笑い声が聞こえた



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「前みたいに言いたいこと言える関係になれるのは、良いけれど
同じ事を繰り返すのは嫌なの」

「うん」

「なんで、別れちゃったのか考えてくれた事ある？」

「あるよ
あの夜、話したこと覚えてる」

「そうなんだ」

「うん…さちが、女からのラインを見て
怒ったんだよね」

「そうね」

「俺は、大した事してなかったのに
遊んで帰って来たって怒るから
頭に来たっていうか…」

「そうだったよね
悪びれないから私も頭に来ちゃって･･･」

「うん…
悪かったと思ってるよ
浮気してきたわけじゃなかったけど･･･
ライン見られて誤解してるって思って頭に来たんだ」

でも今ならわかる
さちが、嫌な気持ちになるのも
俺が勝手なことしてたってことも…
さちと別れてしばらくは、怒ってたんだ
なんでいちいち言われなくちゃならないんだって･･･

ちゃんと　さちのところに帰ってくればそれで良いんだろうって
何しても許してもらえるんだって思ってたから･･･」

「うん･･･」

「でも違うんだってわかった
俺が悪かったんだ
俺が　俺のままでいられたのは、さちだからだ
さちと喧嘩したり仲直りしたり
泣かせたり怒ったりして
それでもさちが、一番だったはずなのに
あの時…感情だけで別れちゃったんだよね」

「うん･･･
じゃあなんで私を探してくれなかったの？
そうしないで、いろんな女の子と遊んでいたんでしょう？」

「いや･･･そういう風に思われても仕方ないけど
さちとは、もう会えないって思ったし
身勝手だった自分を消したいとも思ってた
真剣に向き合える女は一人も現れなかったから
もうどうでも良いやって思ったりもしたんだ」

「でも連絡してくれたのね」

「うん･･･」

「なんでだったの？」

「ネックレスを見つけて
懐かしくなっちゃって
さちのマンションの合鍵があったからマンションまで行ったんだ」

「そうなの？」

「うん･･･ポスト見たらテープが張ってあった
引越したんだなと思って諦めた
きっと幸せにしているって思ったんだ
そしたら翔くんがさちに会ったって言ってさ
それから･･･」

「そうだったの」

「さちは？俺を思い出すことなんて　あった？」

「何度も思い出してたけど
ダンボールに蓋をしてたみたいに思い出してない振りをしてたのかな」

「そうか･･･」



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数ヶ月過ぎた頃
彼の態度が、いつもと違った

仕事で、嫌なことがあったらしく、イライラしていた
不機嫌な顔をして
言葉使いも悪かった

どうしたの？と聞いても
ちゃんと話してくれなかった

「良いんだ
さちには、関係ない事だから」

「そう…」

以前なら反発して口喧嘩になったが
今は違う
なんと言って良いのかわからず黙った
しばらくすると黙ったままの私に言った

「さち…
前ならこういう時どうした？」

「え？
私に当たらないでって喧嘩吹っ掛けてたかな」

「そうだよな
今はなんで、黙ってるの？」

「だって、そんな風に喧嘩してたから
どんどん嫌な女になっていったんだと思うから
同じ事をして嫌われたくないの」

「そんな事、無かったのに…
さちが、俺の態度に腹を立てるのも当然だったし
口喧嘩しながらも最後には落ち着けたし
さちの言うことの方が、正しい事もあったよ」

「そう？
じゃあ喧嘩しようか？」

「ふふ
前みたいになりたいよ
さちの考えてることを知りたいし
本音で付き合って欲しいから」

「うん
でもちょっと聞いても良い？」

「うん…なに？
怖いな」



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もう一度恋人同士になれるのかしら

一緒にご飯を食べてお酒を飲んで
一緒に眠って朝を迎える

いつまで続けられるの？
いつまで同じ気持ちでいられるかしら

そんな不安があったけれど
彼の誘いを断れるはずがない

私で良いなら…と答えていた

「良かった…
俺…今度こそ本当に、さちを大事にするんだ
さちが、嫌な気持ちになることは絶対にしないから」

「そう？信じて良いの？」

「うん…絶対」

「私も、もう一度智さんと
ちゃんとやり直したい」

「良かった…」



そして私達は、また恋人同士になった
時々メールをして会う約束をし
ホテルで待ち合わせをしたり
彼の部屋か私の部屋で過ごした

仕事の話を楽しくしたり聞いたりして
ご飯を食べてお酒を飲んだ

馴れ合った体同士
充分満足して眠る

それでもあの頃のような気持ちには、なれなかった

智さんの喜ぶように笑顔で過ごして
ベッドで振る舞っている

私のそんな気持ちが彼に伝わらないはずはなかった

彼も同じように
自然にしているようでいて
私に気を使い
無理をしているように感じた




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智さんの指は滑らかに動き
私は、たちまちあの頃に引き戻される

優しい言葉を素敵な声で聞かせながら
私を高まらせていく

体が重なって一つになる
彼の背中を手の平で撫で回す
合図のように指先に力を入れると
彼の動きが激しくなっていく

名前を呼ばれて
私も呼んで
そしてお互いの動きが止まって離れた



「さち…他の男に抱かれてないよね」

「なんで？」

「全然変わってないから…」

「そんなこと　わかるものなの？」

「わかるよ
俺のままだから」

「そうなの？」

「そうだろ？
男いたの？」

「いないわ」

「一人も？」

「うん
いなかった」

「そうなんだ
でもなんで？
こんなに魅力的な人なのに…」

「そう？
だったらなんで私を捨てたの？」

「悪かったと思ってるよ
何度も後悔してた
でも忘れようともしてたんだ」

「そうだったの」

「さち…さちは、最高だよ
また俺達付き合おうよ」

「うん」

「良いの？」

「うん…」

「さちだけにするから」

「本当に？」

「うん…
さちが、俺以外の男としてなかったなんて嬉しいんだ」

「そんなことで？」

「違う…
さちの事　本気だったのに
何しても許してくれる気がして
勝手なことしてたって思ってる
バカみたいだけど
離れてから　やっとわかったんだ」

「ほんとう？」

「うん…
さちより好きになれる女は、いなかった」

「何人も付き合ったけど？」

「うん…何人も…って
また意地悪だな」

「だってそうじゃない」

「まあそうかもしれないけど…」

智さんは、私の顔を見ながら
ちょっと真面目な顔をして話していた



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